
森田療法とブリーフセラピーから考える自信の育て方
自分に自信がない人に必要なのは、「自信をつけてから動くこと」ではありません。必要なのは、自信がないまま、目的に沿って小さく行動することです。
自信を持てない人は、「どうすれば自信が持てるのか」「なぜ自分は自信がないのか」「失敗しないためにはどうすればよいのか」と考え続けることがあります。
もちろん、自分を理解しようとすることは大切です。しかし、その原因探しや準備が長く続くと、行動する機会が減ってしまいます。
自信は、頭の中で考え続けるだけでは育ちにくいものです。自信がないまま動いてみる経験、できなくても取り組めた経験、思ったより大丈夫だった経験の中で、少しずつ育っていきます。
そのために役立つのが、森田療法の「とらわれ」と「目的本位」という視点です。
自信を持てない人は、自信をつけようとして、原因を探したり、失敗しない準備を重ねたり、自信がつくまで行動を待ったりすることがあります。しかし、その試みがかえって行動を止め、自信が育つ経験を減らしてしまうことがあります。場合によっては、「また動けなかった」と自分を責めることで、さらに自信を失う悪循環に陥ることもあります。
この悪循環を明確にし、どこを変えれば流れが変わるのかを一緒に考え、悪循環を断ち切る支援として、ブリーフセラピーはとても適しています。
この投稿では、自分に自信がない悩みを、森田療法とブリーフセラピーの視点から考えます。
「自信がついたら動く」は、回避のパターンになりやすい
「自信がついたら動く」という考えは、一見すると自然です。
自信がない状態で行動すると、失敗するかもしれません。恥をかくかもしれません。自分の力不足を感じるかもしれません。人にどう思われるかも気になります。
そのため、「もっと自信がついてからにしよう」「失敗しないと思えるようになってから始めよう」と考えるのです。
しかし、この考え方は、失敗による痛みを避けるための回避になっていることがあります。
たしかに、行動しなければ失敗は避けられます。傷つかずに済むかもしれません。できない自分を直視しなくても済むかもしれません。
しかし、行動を避けると、次のような経験も得られなくなります。
- できなくても取り組めた経験
- 思ったよりできた経験
- 失敗しても大丈夫だった経験
- 人に助けてもらえた経験
- 次は少し工夫できそうだと思えた経験
こうした経験は、自信を育てる材料になります。
ところが、「自信がついたら動く」と考えて行動を避けていると、その材料が増えません。その結果、自信が育ちにくくなります。
さらに、行動を避けたあとに、「また逃げてしまった」「自分はやはりだめだ」と自分を責めることがあります。この自責感が、さらに自信を下げてしまいます。
つまり、次のような悪循環が起こります。
自信がない
→ 自信がついてから動こうとする
→ 行動を避ける
→ 失敗の痛みは一時的に避けられる
→ しかし、自信を育てる経験も得られない
→ 「また避けてしまった」と自分を責める
→ さらに自信を失う
この悪循環が、自信のなさを維持していることがあります。
「自信がつけば問題が解決する」という思い込み
自信を持てない人は、「自信がつけば問題が解決する」と考えることがあります。
しかし実際には、自信のなさそのものが問題なのではなく、何らかの困りごとが先にあることが少なくありません。
たとえば、次のような形です。
- 自信がないから、人に頼めない
- 自信がないから、自分の意見を言えない
- 自信がないから、新しいことを始められない
- 自信がないから、断られるのが怖い
- 自信がないから、失敗しそうなことを避けてしまう
- 自信がないから、親密な関係に踏み込めない
- 自信がないから、仕事で必要な一歩を踏み出せない
このような場合、本人は「自信がないこと」が問題だと考えます。そして、「自信がつけば動けるはずだ」と考えます。
しかし、この考えには注意が必要です。
「自信がないからできない」と考えることで、行動しない理由ができてしまうからです。
その結果、実際に試す機会が減ります。経験が増えません。経験が増えないため、自信も育ちにくくなります。
つまり、「自信がないからできない」という考えが、結果として回避を支える働きをしていることがあります。
大切なのは、「自信をつけてから問題を解決する」ことではありません。自信がないままでも、困りごとに対して小さく関わってみることです。
人に頼めないなら、いきなり大きな頼みごとをする必要はありません。断られても大きな痛手にならない、小さな頼みごとから始めればよいのです。
意見を言えないなら、強く主張する必要はありません。「私は少し違う感じ方をしています」と短く伝えることから始めてもよいのです。
新しいことを始められないなら、最初から大きく変える必要はありません。失敗しても影響が少ない範囲で、少し試してみることができます。
自信をつけることを先に置くのではなく、困りごとに対する小さな行動を先に置く。その行動経験の積み重ねが、結果として自信を育てていきます。
原因探しが、行動を止めることがある

自信を持てない人は、「なぜ自分は自信がないのか」という原因を明確にしたい気持ちが強くなることがあります。
「親の育て方の影響なのか」
「過去の失敗体験が原因なのか」
「性格の問題なのか」
「自己肯定感が低いからなのか」
このように、原因を知ろうとします。
もちろん、原因を理解することは大切です。過去の経験、親子関係、学校や職場での傷つき体験を整理することが役立つ場合もあります。
しかし、原因探しが長く続きすぎると、行動を先送りする理由になることがあります。
原因を探している間は、行動しなくて済みます。行動しなければ、失敗しなくて済みます。失敗しなければ、傷つかずに済みます。
つまり、原因探しが自己理解ではなく、回避の手段になっている場合があるのです。
「原因が分かれば動けるはず」と考えているうちに、実際の行動は後回しになります。すると、成功体験も、失敗しても大丈夫だった経験も得られません。
その結果、自信が育たないままになります。
ここで必要なのは、原因を探すことを完全にやめることではありません。原因を考えながらも、「今できる小さな行動は何か」を一緒に考えることです。
「なぜ自信がないのか」だけでなく、「自信がないままでも、何なら少しできるのか」
という問いに変えていくことが大切です。
森田療法とは何か
森田療法とは、日本の精神科医である森田正馬によって創始された心理療法です。もともとは、不安や恐怖にとらわれやすい人への治療として発展しました。
森田療法の特徴は、不安や恐怖をなくすことを第一の目標にしない点にあります。
不安を消してから行動するのではありません。不安があるまま、現実の生活に必要な行動をしていくことを重視します。
これは、自信の悩みにも通じます。
自信がない人は、「自信がついたら動く」「不安がなくなったら始める」「確信が持てたら行動する」と考えやすいです。
しかし、森田療法の視点では、自信のなさや不安を完全になくしてから行動する必要はありません。
自信がないままでも、今できることをする。
不安があるままでも、自分が大切にしたいことに向かって動く。
確信がないままでも、必要な一歩を小さく踏み出す。
これが、森田療法の基本的な姿勢です。
この考え方を理解するうえで重要なのが、「とらわれ」と「目的本位」です。
森田療法の「とらわれ」:自信のなさをなくそうとするほど、とらわれる

森田療法では、不安や症状をなくそうとするほど、かえってそこに注意が向き、抜け出しにくくなる状態を「とらわれ」として理解します。
たとえば、「緊張してはいけない」と思うほど、自分の緊張が気になります。「眠らなければならない」と思うほど、眠れているかどうかが気になります。
自信の悩みでも、同じことが起こります。
自信がない
→ 自信を持とうとする
→ 自信があるかどうかを確認する
→ やはり自信がないと感じる
→ さらに自信のなさが気になる
このように、自信を持とうとする努力が、かえって自信のなさへの注意を強めることがあります。
問題は、自信がないことだけではありません。自信があるかどうかを確認し続け、自信のなさに注意が固定されてしまうことです。
「今の自分には自信があるだろうか」
「このまま行動して大丈夫だろうか」
「もっと自信を持てるようになってからのほうがよいのではないか」
このように確認を続けるほど、自信のなさが大きな問題のように感じられます。
そして、行動よりも、自信の有無を確認することにエネルギーが使われてしまいます。
これが、自信のなさへの「とらわれ」です。
森田療法の「目的本位」:自信がないまま動く
森田療法には、「目的本位」という考え方があります。
目的本位とは、不安や気分を行動の基準にするのではなく、自分が何を大切にしたいのか、今何をする必要があるのかを基準にして行動する姿勢です。
自信の悩みに当てはめると、次のようになります。
自信があるから動くのではありません。
自信がないまま、目的に沿って動くのです。
不安が消えたから始めるのではありません。
不安があるまま、今できることを始めるのです。
原因が完全に分かったから行動するのではありません。
分からない部分を残したまま、小さく試すのです。
この姿勢は、自信を持てない人にとって大きな転換になります。
自信を持てない人は、行動する前に「自信があるかどうか」を確認しがちです。しかし、目的本位では、自信の有無を行動の条件にしません。
「自信があるか」ではなく、「今、自分は何を大切にしたいのか」
「失敗しないか」ではなく、「経験を増やすために、何を少し試せるか」
「不安が消えたか」ではなく、「不安があるままでも、何ならできるか」
このように問いを変えていきます。
自信を育てるには、自信の有無を行動の条件にしないことが大切です。不安があるまま、確信がないまま、目的に沿って小さく行動する。その経験の積み重ねが、自信を育てていきます。
VUCAの時代は、回避を強めやすい

近年、VUCAという言葉が使われるようになりました。
VUCAとは、次の4つの言葉の頭文字です。
- 変動性:Volatility
- 不確実性:Uncertainty
- 複雑性:Complexity
- 曖昧性:Ambiguity
現代は、変化が速く、先が読みにくく、物事が複雑で、正解がはっきりしにくい時代だと言われています。
ただし、VUCAが自信のなさを生むわけではありません。
「自信がついたら動く」という回避のパターンは、いつの時代にもあったものです。失敗したくない、傷つきたくない、恥をかきたくないという気持ちは、現代だけのものではありません。
しかし、現代は不確実性や曖昧性が高いため、「失敗しない見通しが立ってから動きたい」「確信が持ててから始めたい」という気持ちが、より強まりやすい面があります。
- 何が正解なのか分かりにくい。
- 努力しても結果が出るとは限らない。
- 人間関係も仕事も、変化が速い。
- 一つの選択が正しいのかどうか、すぐには判断できない。
このような環境では、自信がない人ほど、行動のハードルが高くなります。
だからこそ、不確実性をなくしてから動くのではなく、不確実性を前提にして、目的本位で行動することが必要になります。
- 完全に安心できるまで待つのではなく、不安がありながらも小さく試す。
- 確実な正解を探し続けるのではなく、動きながら調整する。
- 失敗しない保証を求めるのではなく、失敗しても立て直せる範囲で行動する。
このような姿勢が、自信を育てる土台になります。
ブリーフセラピーは、自信のなさを維持する悪循環を見る
森田療法は、自信の悩みに対して大切な視点を与えてくれます。
一方で、実際のカウンセリングでは、「では、どこから変えていくのか」「どのように行動を変えていくのか」が必要になります。
そこで役立つのが、ブリーフセラピーです。
ブリーフセラピーは、問題の原因を深く探ることだけを目的にするのではありません。今、その問題がどのようなパターンで維持されているのかを見ます。
特にMRIアプローチでは、「問題を解決しようとする試みが、かえって問題を維持していないか」に注目します。
自信の悩みでは、次のような努力が問題を維持していることがあります。
- 原因を明確にしようとする
- 自信がつくまで待つ
- 失敗しないように準備し続ける
- 不安をなくそうとする
- 人からどう見られるかを確認し続ける
- 完璧にできる方法を探し続ける
- 失敗しそうな場面を避け続ける
これらは、本人なりの努力です。決して怠けているわけではありません。むしろ、一生懸命に自分を守ろうとしているのです。
しかし、その努力が行動を止め、自信を育てる経験を減らしている場合があります。
自信がない
→ 失敗しない方法を探す
→ 準備や確認が増える
→ 行動が遅れる
→ 経験が増えない
→ 自信が育たない
→ さらに失敗が怖くなる
このような悪循環があるなら、必要なのは「もっと考えること」ではありません。悪循環のどこかを少し変えることです。
ブリーフセラピーでは、この悪循環を見つけ、どこを少し変えると動きが生まれるかを考えます。
たとえば、完璧な準備を続けて行動できない人には、準備を少し減らして、小さく試すことが変化になるかもしれません。
人にどう思われるかを確認し続ける人には、確認を少し減らし、自分の目的に沿って一言だけ伝えることが変化になるかもしれません。
原因を探し続けて動けない人には、原因が完全に分からないままでもできる小さな行動を探すことが変化になるかもしれません。
このように、ブリーフセラピーでは、悪循環を見立て、その人が実際に動ける形にしていきます。
SFAの視点:すでに少しできている場面を見つける
ブリーフセラピーには、SFA、つまり解決志向アプローチという考え方もあります。
SFAでは、問題の原因だけに注目するのではなく、すでに少しでもうまくいっている場面に注目します。
自信がない人でも、いつも何もできていないわけではありません。
たとえば、次のような場面があるかもしれません。
- 自信はなかったが行動できた場面
- いつもより少し動けた場面
- 人に頼れた場面
- 失敗しても立て直せた場面
- 完璧ではないが、少し進めた場面
- 不安はあったが、終わってみると案外大丈夫だった場面
こうした場面は、自信を育てる手がかりになります。
自信を持てない人は、「自分はまったくできない」と考えやすいです。しかし、実際には、少しできている場面や、完全には避けずに済んだ場面があることも少なくありません。
SFAでは、こうした「例外」に注目します。
例外とは、問題がいつもより少し弱まっている場面、少しでもうまくいっている場面のことです。
「なぜできないのか」だけでなく、「どんなときに少しできているのか」「何があると少し動きやすいのか」「前に少しできたときは、何が違っていたのか」
このように見ていくことで、「自分は何もできない」という見方が少しずつゆるみます。
そして、小さな成功体験を再現しやすくなります。
自信を育てるためにできること
自信を育てるためには、自信を持とうとしすぎないことが大切です。
ここでは、実際に取り組みやすい方向性を整理します。
原因探しを続けすぎない
原因を知ることは大切です。しかし、原因が完全に分からなくても、できることはあります。
「なぜ自信がないのか」だけでなく、「自信がないままでも、今できることは何か」
と問いを変えてみます。
原因探しをやめる必要はありません。けれども、原因探しだけで止まらないことが大切です。
自信があるかどうかを確認しすぎない
行動する前に、自信の有無を確認し続けると、かえって自信のなさが気になりやすくなります。
「自信があるか」ではなく、「今、何を少し試すか」
に目を向けます。
自信があるかどうかを判断してから動くのではなく、自信がないままでもできる行動を探します。
行動を小さくする
大きな一歩を踏み出そうとすると、失敗への不安が強くなります。
そのため、最初の行動は小さくします。
- 5分だけ調べる
- 一人に相談する
- 短いメールを送る
- 完璧でなくても一度出してみる
- 断られても大丈夫な小さな頼みごとをする
- 会議で一言だけ発言する
- 自分の希望を一つだけ伝える
小さな行動であれば、失敗しても立て直しやすくなります。
大切なのは、大きく変わることではありません。行動の回避を少しゆるめることです。
結果ではなく、取り組んだことを見る
自信を持てない人は、結果だけで自分を評価しやすいです。
「うまくいかなかったから、やはり自分はだめだ」
「相手の反応がよくなかったから、言わなければよかった」
「完璧にできなかったから、意味がなかった」
このように考えやすいのです。
しかし、自信を育てるには、結果だけでなく、取り組んだことを見る必要があります。
うまくいったかどうかだけでなく、
「自信がないまま動けた」
「不安があっても試せた」
「完璧ではないが、一歩進めた」
という経験を認めることが大切です。
成功だけが自信を育てるわけではありません。できなくても取り組めた経験も、自信を育てる土台になります。
不確実性を前提にする
完全に安心してから動こうとすると、行動の機会は少なくなります。
現実には、やってみなければ分からないことが多くあります。人がどう反応するかも、結果がどうなるかも、事前には分かりません。
だからこそ、不確実性をなくすのではなく、不確実性を前提にして、小さく試していくことが必要です。
「絶対に大丈夫」と思えるまで待つのではなく、「失敗しても立て直せる範囲で試す」
と考えてみます。
この姿勢が、自信の有無にとらわれない行動につながります。
目的を確認する
自信がないときは、「不安をなくすこと」「失敗しないこと」「傷つかないこと」が目標になりやすいです。
しかし、それだけでは行動が狭くなります。
大切なのは、自分が何を大切にしたいのかを確認することです。
- 人ともう少し関わりたいのか。
- 仕事で必要なことを進めたいのか。
- 自分の意見を少し伝えたいのか。
- 新しい経験を少し増やしたいのか。
- 自分の生活を少し前に進めたいのか。
目的が見えると、自信の有無だけに振り回されにくくなります。
自信があるかどうかではなく、目的に沿って何を小さくできるか。そこに目を向けることが大切です。
まとめ:自信は、行動の前ではなく後から育つ

自分に自信がない人に必要なのは、「自信が持てる考え方」を探し続けることではありません。自信がない自分を責めることでもありません。
必要なのは、自信の有無にとらわれず、不安や不確実性を抱えたまま、目的に沿って小さく行動することです。
「自信がないからできない」と考えると、行動は止まりやすくなります。行動が止まると、成功体験も、失敗しても大丈夫だった経験も、できなくても取り組めた経験も得られません。その結果、自信が育ちにくくなります。
森田療法は、自信のなさにとらわれず、目的に沿って行動するための大切な視点を与えてくれます。
そしてブリーフセラピーは、原因探しや回避によって維持されている悪循環を見つけ、実際の行動の変化につなげる支援として有効です。
自信は、行動する前に完全に用意するものではありません。自信がないまま動いてみる経験、できなくても取り組めた経験、思ったより大丈夫だった経験の積み重ねの中で、少しずつ育っていくものです。


