
先日SNSで、ある飲食店の女性店員が話題になっていました。たくさんのタトゥーを入れているからです。
その女性店員が働く姿を収めた動画には、たくさんの賛否両論のコメントが投稿されていました。
その動画を見て、うちの娘がタトゥーを入れたいと言ったときのことを思い出しました。
「僕は1割で勝負します」
その講演は『人は見た目が9割』がベストセラーになった頃でした。調べてみると、初版は2005年…20年前…時間の流れを感じます。
講演者はある会社の社長でした。覚えているのは以下のくだりです。
うちの営業マンには、「『人は見た目が9割』と言われるほど見た目は大事です。だから、身なりに気を配って下さい」と言っています。
このように言うと、「僕は1割で勝負します」と言う奴が必ずいるんです。だから今は、「人は見た目が10割だ」と言ってます。
「僕は1割で勝負します」という言葉は、単なる反骨精神や開き直りだけでなく、「見た目」という要素に左右されない本質的な価値や人間的魅力で評価されたい、という強い意志の表れかもしれません。
しかし、それでも私なら、やはり「10割」の方を意識します。
それは、第一印象の影響が大きいためです。例えば、採用面接では清潔感のある身だしなみが信頼感につながりやすいですし、TPOをわきまえた服装は相手への敬意を示すことにもなります。
一方で、派手な服装や髪型だけで内面まで軽薄だと判断されたり、口数が少ないだけで不愛想だと誤解されたりすることも、残念ながら少なくありません。悪い印象を与えてマイナスからスタートするよりも、良い印象を与えてプラスから始める方が得だと考えます。
第一印象の影響について、社会心理学の分野に有名な研究があります。興味がある方は、「初頭効果」「薄切り効果」等のキーワードで検索してみて下さい。
私たちは日々、多数の決断をしている
私たちの日常は、無数の決断の積み重ねで成り立っていると言えます。
朝起きて何を食べるか、何を着るかといった小さなことから、仕事や人間関係における重要な選択まで、私たちは常に何らかの決断をしています。
私たちは1日にどれくらいの決断をしているのでしょうか。
ある研究では、平均的な成人は1日に約122回の決断をすると報告されています。また、別の研究では、管理職は1日に平均70回の意思決定を行うとしています。
「決断」の定義によって数字は異なるでしょうから、何回と断定するのは困難です。しかし、多数の決断を行なっているのは確かでしょう。
そして、ここで強調したいのは、すべての決断において、一つ一つ丁寧に情報を集めて、論理的に分析するのは、ほとんど不可能なことです。
多くの決断は、経験則によって効率的に行われています。
ヒューリスティック
ヒューリスティックとは、経験や直感に基づいて、必ずしも正しいとは限らないものの、素早く意思決定や問題解決を行うための思考方法のことです。
例えば、初めて会った人の服装から職業を推測したり、いつも混んでいる飲食店は美味しい店と判断したりするのは、ヒューリスティックの一種です。
過去の経験やパターン認識を利用することで、私たちは限られた時間と情報の中で、効率的に「おそらく正しいだろう」という結論を導き出しています。
代表的なヒューリスティックには、以下のようなものがあります。
これらのヒューリスティックのおかげで、私たちは日々の多数の決断をスムーズに行うことができます。
もちろん、ヒューリスティックによる決断が間違うこともありますが、ほとんどの場合、間違ったところで大した問題になりません。
話が脇に道に逸れますが、「いつも混んでいる飲食店はおいしいだろう」は、社会的証明と呼ばれる心のメカニズムでもあります。マーケティングにおいて広く用いられています。お客様の声や口コミを集めるのは、この原理を活用するためです。
昔、大手ファーストフード店の新店オープンの際に、サクラを雇って行列を作ったことが明らかになり、批判されたことがありました。
自称「セールスマンのカモ」の社会心理学者ロバート・チャルディーニによる『影響力の武器』は、社会的証明を含む7つの原理が紹介されています。とてもおもしろくて、読み物としておすすめです。
「1割」の選択には覚悟が必要
話を戻します。
「見た目」は、私たちが相手を理解するための最初の情報であり、強力なヒューリスティックとして働きます。
もちろん、「見た目だけで人を判断するべきではない」というのは正論です。決めつけは偏見や誤解の元です。
一方で、特に日本では、文化的な背景からタトゥーに対して、ネガティブなイメージを持つ人がいることも事実です。
タトゥーを入れるという決断は、自身の個性を表現する自由であると同時に、社会からの見られ方に対する「覚悟」も必要だと考えます。
という話を、「娘の意志は尊重したい」と「本音を言えばやめてほしい」という葛藤を抱えながら、タトゥーを入れたいと言った娘に話しました。
何も言わずに聞いていた娘ですが、
翌週、タトゥーを入れていました。