ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」:自信は育てるもの

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」

読みました。『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」 荒木香織 講談社+α新書』です。

あのラグビー日本代表のメンタルコーチ、荒木香織氏の著書なら多くの人が読みたくなりますよね。ミーハーな気持ちで読ませていただきました。

研究によって確立された理論、学問としての心理学に裏打ちされたメンタルコーチ

氏は元々、全日本クラスの陸上選手だったそうです。後にアメリカでスポーツ心理学を学び、博士課程を修了されたとのこと。そのようなバックボーンをお持ちだからでしょうか、トンデモ心理学、なんちゃって心理学、自己啓発系の類いにネガティブな見解を述べられています。

「経験や感覚といった根拠のないものではありません」「という研究があります」という言葉が登場します。「○○は絶対にウソだと思います」という言葉さえ出てきます。

なんちゃって心理学系、自己啓発系に対する意見は私も同じです。社会に受け入れられるためにはエビデンス(科学的実証)が必要と思います。

しかし、脳のすべてが科学的に解明されているわけではありません。脳が作り出す心のすべてを科学的に実証するのは現時点では無理です。科学的にこだわりすぎると現実に対応できないと思います。

「今、ここ」にいるためのルーティン

五郎丸選手のあのルーティン。正確には「プレ・パフォーマンス・ルーティン」と言うそうです。キックというパフォーマンスの前(プレ)に行う準備(ルーティン)という意味です。

プレ・パフォーマンス・ルーティンでよく誤解されるのは、五郎丸選手の場合なら、「キックに集中するために行う」と思われがちなこと。

そうではなくて、「プレ・パフォーマンス・ルーティンに集中する」のです。

心理療法で言う「今、ここ」ですね。

不安は未来に対して抱く感情です。後悔は過去に対して抱く感情です。今に集中しているとき、人の心は安定します。

うつ病になりやすい人は、何かを後悔し始めると、心がずっと過去にいる傾向があります。何かが不安になると、心がずっと未来にいる傾向があります。

なりにくい人は、後悔や不安に包まれても、それらの感情と距離を置くことができます。過去や未来と距離を置くとは、「今、ここ」にいることですね。

近年注目されているマインドフルネスは、まさに「今、ここ」にいる状態を意味します。「今、ここ」にいるための訓練として瞑想が用いられています。

プレ・パフォーマンス・ルーティンとは、「今、ここ」にいるためのスキルと受け取っています。五郎丸選手はプレ・パフォーマンス・ルーティンによって、どのような場面でも「今、ここ」にいられるのだろうと推測しています。

「自信がある人」になる方法

「自信がある人」になる方法として3つあげられています。

  1. 自信があるようにふるまう
  2. セルフトーク
  3. 繰り返し練習する

詳しい内容は省きます。

省いた理由は、それらを読んでも「自信がある人」にはなれないだろうと思うからです。すでに知ってる人が多いだろうし、知ってもできなくて、さらに自己尊重感が低下する人がいるからです。

著者を批判する意図はありません。新書という限られたスペースで詳しく伝えることは困難です。泣く泣く削りに削ってこのような形になったのでしょう。著者が自由に書ける専門書を出版する機会を今から楽しみにしています。

とは言いながらも、3の練習するは同意します。わたし的には、自信は育てるものという表現がしっくりきます。

メンタルは鍛えることができる、メンタルはスキル

そう、メンタルは鍛えることができるのです。その意味で、メンタルはスキルなのです。

自信も同じです。鍛えることができます。スキルです。

あらかじめ断っておきますが、メンタルはすぐに鍛えられるものではありません。スキルなのですから、習得にはそれなりの時間がかかります。

自信も同じです。個人差がありますが、土台を作るのに概ね3ヶ月かかると思っています。

私は、自信は鍛えるじゃなくて「育てる」と考えています。わが子の日々の成長はわかりにくいものです。しかし、おじいちゃん・おばあちゃんが孫に久しぶりに会うと、「大きくなったね−!」と驚きます。

自信もそのようにして育っていくものです。

新書なので無理はありませんが、内容は少々物足りなく感じました。次は専門書を期待したいです。