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執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
夫婦の間で建設的な対話を行うには、具体的な方法とコツがあります。この記事では、カウンセリングの現場で実践されている効果的な対話の方法について、具体例を交えながら詳しく説明します。
実際のカウンセリングでは、まず夫婦の間で行われている具体的な会話をお聴きした上で、それぞれのご夫婦の状況に合わせた適切なアドバイスをさせていただいています。ここでご紹介する方法は、そうした実践から得られた知見をもとにしています。
コミュニケーションの方法は、大きく3つのタイプに分けることができます。
特に夫婦においては、相手も自分も大切にするアサーティブな姿勢でのコミュニケーションを中心に行うのが望ましいです。
常にアサーティブでなければならないわけではありません。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自分の意思で受身的もしくは攻撃的なコミュニケーションを選ぶのであれば問題ありません。
ただし、夫婦の間で攻撃的なコミュニケーションを選択すべき場面は思いつきません。
アサーティブ・コミュニケーションを実践する具体的な方法の一つが、DESC法です。これは、感情的になりやすい話題でも、建設的な話し合いを可能にする手法として、カウンセリングの現場でも活用されています。
DESC法は4つのステップで構成されており、それぞれの頭文字を取ってDESC法と呼ばれています。
以下の4つのステップからなります。前半のDとEがうまくできれば、後半のSとCは比較的スムーズに行えることが多いようです。また、DとEは「お互いを理解し合うための夫婦コミュニケーションの基礎」で紹介したアイメッセージでもあります。
【良い例】
「昨日、私が話しているときにスマートフォンを見ていたよね」
【避けたい例】
「いつも私が話しているときにスマートフォンばかり見ている」
【良い例】
「私は大切な話をしているつもりだったので、とてもさびしかった」
【避けたい例】
「あなたは私の話なんて聞く気がないんでしょ」
【良い例】
「大切な話をするときは、スマートフォンを置いて話を聞いてほしい」
【避けたい例】
「もっと私の気持ちを考えてよ」
【良い例】
「そうすれば、私もあなたに大切な話が伝えられるし、お互いの理解も深まると思う」
【避けたい例】
「そうしないと、私、もう話しかけないから」
コミュニケーションの障害になり得る言葉には典型的な例があります。「いつも」「また」といった曖昧な言葉、怒りを伴う質問の形は、誤解や対立を引き起こす原因となります。また、身振りや手振り、口調などの非言語情報もコミュニケーションの重要な要素です。
「いつも」「絶対」「全然」「必ず」などの言葉を使った表現は、常にそうであると主張しているように聞こえます。また、人格の批判になりうる表現です。相手が防衛的になったり、反発を引き出すことがあります。
【避けたい例】
「いつも私の気持ちを考えてくれない」
「絶対に変わろうとしない」
【改善例】
「昨日の件では、私の気持ちを理解してもらえなかったと感じた」
「この件について、もう少し考えを聞かせて」
一般化をさらに強めた表現がレッテル貼りです。人格を否定する意味に取られます。
【避けたい例】
「あなたは自己中心的な人だ」
「そんなところが嫌いなの」
【改善例】
「この行動は私にとって理解がむずかしい」
「その部分について、もう少し話し合いたい」
「どうしていつもこんなに無神経なの!?」といった質問の形をした言葉は、回答を求めているのではなく、相手を責めたり非難したりする気持ちによることが多いです。
質問されると答えます。その一生懸命な説明に対して、「それは言い訳」と切り捨ててしまうことがあります。
そうなると、説明する側も「何を話しても言い訳だと決めつけられるのなら、もう何も言わない方がいい」と考えるようになり、お互いの対話がさらにむずかしくなってしまう可能性があります。
私たちは、言葉だけでなく、声のトーン、表情、視線など、非言語でもコミュニケーションを行っています。
3つの情報が一致しているとき、気持ちが正確に伝わりやすいです。以下の例です。
「悲しい」(言語情報)と、伏し目がち(視覚情報)に、弱々しい声(言語情報)で訴えた
3つの情報が不一致のときはどうでしょう。
「悲しい」(言語情報)と、睨みながら(視覚情報)、声を荒げて(言語情報)で訴えた。
睨みながら、声を荒げながら、「悲しい」と訴えられると、「めっちゃ怒ってる!」と感じませんか。
3つの情報が不一致のとき、どの情報が優先されるかを研究した人がいます。メラビアンの法則として知られています。優先度は以下のようになります。
言語情報は7%です。言葉でどれだけ「悲しい」と訴えても、口調と表情が怒りであれば、残念ながら悲しい気持ちは伝わりません。
相手の話を効果的に聴くことは、話すことより重要かもしれません。人は誰しも、特に夫婦においては、理解され、受け入れられることを強く求めています。これは、共感を求めていると言い換えることができます。
共感には、認知的共感と情動的共感の2つがあるとされています。
情動的共感(同じように感じる)の向上はむずかしいと考えられています。認知的共感(相手の気持ちを理解する)は向上が可能です。例えば、ABC理論に基づく気持ちの言語化は、認知的共感を向上させます。
パートナー:「今日の上司の言い方、本当に気分が悪かった…」
【良い聴き方】
「つらかったね。もう少し詳しく話してくれる?」
「そう感じるのは当然だと思う。具体的にどんな場面だった?」
【避けたい聴き方】
「あなたにも原因があるんじゃない?」
「気にしすぎだよ」
パートナー:「子どもの対応に疲れちゃって…」
【良い聴き方】
「毎日大変だよね。どんなところが特に疲れる?」
「私にできることある?」
【避けたい聴き方】
「私だってやってるでしょ」
「そんなの当たり前じゃない」
いつも聴き方ができるわけではありません。人間ですから、疲労やストレスが蓄積すると、刺々しくなることもあります。そのような事態に対応するには、話し合いの仕組みを作っておくことが望ましいです。
効果的な対話方法は、練習を重ねることで必ず上達します。少しずつ実践していくことが大切です。
この記事で紹介した対話の方法は、一般的な指針として参考にしていただけるものです。しかし、実際の夫婦関係では、それぞれの背景や状況が異なりますので、カウンセリングではまず具体的な会話の様子をお聴きした上で、お二人の状況に最適な改善方法をご提案させていただいています。
対話の改善に悩まれている方は、まずは具体的な会話の例を含めてご相談いただければ、専門家の立場から適切なアドバイスをさせていただくことが可能です。