年初に目標を立てる人の多くが、行動が伴わずに未達に終わると言われています。その原因と達成するためのポイントを短期療法の視点からお伝えします。
短期療法とは
短期療法(ブリーフセラピー/Brief Therapy)とは、効果的かつ効率的な支援を行うカウンセリングの一学派です。以前は長期的なカウンセリングが主流でした。「短期」の名称には、そのアンチテーゼが含まれています。
他の心理療法と異なるのは、問題を扱わずに解決を扱うことです。解決とは問題がなくなった状態です。解決を構築できれば、もはや問題を扱う必要はないと考えます。この発想はスゴいと思いませんか。
問題が解決した状態、望む状態を明確にします。下図は未経験者がフルマラソン完走を目標にした例です。「ゴール・解決」が完走です。まずは10km完走を最初の目標、次に20kmというように、目標達成を積み重ねてゴールに向かいます。
目標達成という成功を積み重ねて自己効力感を育てることを重要視しています。成功する目標設定が重要です。
ウェルフォームド・ゴール
短期療法の学派の一つである解決志向アプローチには、ウェルフォームド・ゴールという言葉があります。簡単に言うと良いゴールです。いくつかの条件がありますが、ここでは特に重要な3つの条件を紹介します。
- 具体的で行動の形で表現されること
- 否定形ではなく肯定形で表現できること
- 大きなものではなく、小さなこと
一つずつ説明します。
具体的で行動の形で表現されること
悪い目標は、抽象的で日々の行動に落とし込めていないことです。
「○○kg減量」や「TOEIC○○○点」をゴールに設定したとします。これだけでは、まず達成は望めません。その結果を導く行動が存在しないからです。
「週2日は1駅分歩く」「毎晩15分リスニングの音声を聞く」のように具体的な行動を日々の目標として設定する必要があります。
否定形ではなく肯定形で表現できること
「食べ過ぎない」という否定的な表現は目標として機能しないことが多いです。おかわりしたくなったら「こんにゃく料理を食べる」「5分読書してそれでも食欲があれば食べる」のほうが達成しやすいです。
大きなものではなく、小さなこと
3つ目の条件は、目標は小さくです。大切なのは成功体験を積み重ねることです。特にカウンセリングでは、クライエントに絶対に成功してほしいのです。間違ってもカウンセラーから大きな目標を提示してはいけません。
「目標が小さすぎると、ゴールに永遠にたどりつけないのではありませんか」という疑問が生じるかもしれません。実は私もそうでした。しかし今は個人的な目標として、1日に0.1%成長を設定しています。
下のグラフは、毎日0.1%成長すれば、1年後どの程度成長しているかをExcelで計算したものです。0.2%と0.3%も加えました。
1日目を1とします。毎日0.1%成長の場合、2日目「1×1.001=1.001」、3日目「1.001×1.001=1.002001」、4日目「1.002001×1.001=1.003003001」と複利で365日まで計算しました。
毎日0.1%成長の365日目「1.438812501」
毎日0.2%成長の365日目「2.069429508」
毎日0.3%成長の365日目「2.97536068」
毎日0.1%成長を1年間続けたら40%成長です。
短期療法の哲学の一つに「小さな変化は大きな変化に結びつく」があります。その通りだと思いませんか。
測定できる形に
短期療法には「スケーリングクエスチョン」という質問の技法があります。抽象的な目標を具体化するのに有効です。現状や進捗を数値で評価してもらいます。
「時間がなくて自分の勉強ができない。もっと勉強したい」と言う人に、
「満足に勉強できている状態を10、まったくできていないを0としたら、今はどれくらいですか」
「どのようになれば10になったと実感するでしょうか」
「今は3とのことですが、もし4になったとしたら、どうやってそれに気づきますか」
などと質問して具体化を試みます。測定できると進捗や成長を実感しやすくなります。100か0、白か黒では中々モチベーションを維持できません。
目標を忘れてしまっている
目標を達成できない原因の一つは、目標そのものを忘れてしまうことです。ウソみたいですけど本当です。「人生において何が何でも達成したことがある!」という人ならありえないと思いますが、そのような人は少数ではないかと思います。
自分に自信を持てない人の中には、目標未達でさらに自己肯定感が傷つくことを恐れて、目標を持とうとしない人がいます。そのような人も、小さな成功体験を重ねていくと、徐々に意欲が高まって、自分の目標を持てるようになるものです。
手前味噌ですが、その一歩を踏み出したい方には、カウンセリングやコーチングがとても役に立ちます。是非お試し下さい。
参考文献
- 森俊夫・黒沢幸子(2002)『〈森・黒沢のワークショップで学ぶ〉解決志向ブリーフセラピー』ほんの森出版
- 若島孔文・長谷川啓三(2018)『新版 よくわかる!短期療法ガイドブック』金剛出版
- ピーター・ディヤング,インスー・キム・バーグ(桐田弘江・玉真慎子・住谷祐子訳)(2016)『解決のための面接技法[第4版]―ソリューション・フォーカストアプローチの手引き』金剛出版