執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
自分の性格に悩んでいる人のカウンセリング
「性格改善」や「性格を変える」のキーワードで検索される方が多いので用いていますが、これらの表現は望ましくないと考えています。自分の存在や人格の全否定につながりかねないからです。性格を変える必要はありません。幅を広げて適応力の向上を図るのが望ましい方向です。
性格改善に取り組むきっかけ
性格を改善したいと考えるのは、自分の考え方や行動が不快な結果や苦痛をもたらして、それが繰り返されてきて、その繰り返しを断ち切りたいという理由が多いです。例えば以下のように、頼まれごとを断れずに、毎回しんどい思いをする、などです。
友人たちとの食事会の幹事を依頼された
➡︎ 毎回、私なので他の人にもやってほしい
➡ 最近、忙しいので今回こそ他の人にやってほしい
➡︎ 空気が悪くなるのがイヤで言えない
➡︎ 今回も引き受ける
➡︎ 次の幹事も依頼される
➡︎ 他の人にやってほしい
➡︎ 空気が悪くなるのがイヤで言えない
➡︎ 引き受ける
➡ 以下繰り返し
その結果、何かのきっかけで積み重ねた不満を抑えられなくなり、キレてしまって友人たちとの関係が微妙になってしまった。もしくは、気まずくなって距離を置くことになってしまった。もしくは、職場や家庭でイライラしていることが多くなった。
そのようなことがきっかけでお越しになるケースが多いようです。
参考ページ:自分に自信がない悩みのカウンセリング
性格改善のカウンセリング
性格改善のカウンセリングで行う主な取り組みを紹介します。取り組む順序はケースによって異なります。必ずしもすべてを行うわけではありません。ここで紹介していないことに取り組むケースもあります。
- 問題の発生・維持のメカニズムの理解
- セルフモニタリング(自分を客観的に観察する)
- 目標設定
- 認知再構成
- 行動実験
- コミュニケーションスキル
問題の発生・維持のメカニズムの理解
主に、状況、認知(考え方)、感情、行動、身体の5つの要素に何が起きて、どのような相互作用が生じているのかという視点で、問題が起きているメカニズム、問題を維持しているメカニズムを概念化します。
セルフモニタリング
自分を客観的に観察します。考え方のクセ、行動のパターン、それらの悪循環に自分で築けるように取り組みます。カウンセリングの目標の一つに「自分のカウンセラーになる」があります。そのためには自分を客観的に見るトレーニングが必要です。日常生活で取り組むホームワークとすることが多いです。
目標設定
何がどのようになれば性格が改選されたことになるか。具体的な目標を設定します。「今後一切、不安を感じることがない強靭な心を作る」というような非現実的な目標設定は行いません。現実的で、是が非とも達成したい目標を設定します。
長期的、中期的、短期的目標を設定して、短期的目標の達成を繰り返しながら、中期的、長期的目標の達成を目指します。短期、中期の目標を達成して、長期目標には一人で向かえる自信がついて集結となるケースが多いです。
認知再構成
自分をつらくさせる考え方のクセに気づき、バランスの良い考え方にします。認知行動療法の代表的な技法の一つです。カウンセリングで一緒に取り組み、ホームワークとして日常生活で実践していただきます。
行動実験
実際に行動することで、考え方が現実的か、バランスの良い結果につながるかなどを試します。認知再構成とセットで行うのが一般的です。
コミュニケーションスキル
人の悩みの8割は人間関係とも言われます。性格を改善したいと考えるきっかけの多くは人間関係に起因するものです。自分も相手も大切にして、自分の気持ちや考えをしっかり伝えるアサーティブコミュニケーションをロールプレイを行うなどして一緒に練習することもあります。s
性格を変えるのではなく幅を広げる
最初に「『性格改善』という言葉は好きじゃない。不適切で不正確だと思う」と申し上げました。最後にそう考える理由をお伝えしたいと思います。
性格を改善したいとお越しになる方はほぼ例外なく、周囲に気遣いができて思いやりがある、人として好感を感じる方です。その人間性はこれまでの人生において、概ね良い結果をもたらしてきたはずです。だからこそ、現在も持ち続けているはずです。良いことが何もなければどこかで手放しているはずです。
今しんどい思いをしているのは、その人間性(考え方と行動の枠組み)が裏目に出ることが多い時期・状況に身を置いているからだと考えられます。
「性格改善」という言葉には、これまでの人生において培ってきた人間性を否定するニュアンスが感じられます。悩みながらも社会の一員として、義務や責任を果たして、しっかり生きていらっしゃる方の人間性を否定するのは間違っています。それは声を大にして言いたいです。
「性格改善」を考え方の修正と捉えると、かえって悪化させる危険があるのは、日本の認知行動療法の第一人者もおっしゃっています。
考え方を変えるのではなく、考え方の幅を広げて、その状況に適切な考え方を選択して、自分も周囲も尊重する行動を行う。それが健全な姿です。幅を広げるサポートがカウンセラーの役割だと考えています。