申し込んだ時点でカウンセリングが始まっている

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

先日、数年前に数回通われた方が来談されました。再会を懐かしんで、お互いの近況報告をし後、「それで、どうされたのですか?」とお聞きすると、

「実は、誰にも話したことがないんですが、3年間くらい悩んでるんです」

との言葉から始まり

「でも、カウンセリングを申し込んだら気持ちが楽になって、申し込む前の悩みの大きさが『10』だとしたら、今は『3』くらいになった感じなんです」

と、おっしゃいました。

数値で表現するとは、スケーリング・クエスチョンで問われたのをしっかり覚えているなと、心の中でニヤリとしました。

スケーリング・クエスチョンとは、「一番いい時の状態を10点、最悪の状態を0点としたら、今は何点ですか?」のように数値で答えてもらう質問です。

「とても調子が悪い」と言う人に「何点ですか」と聞くと、「0点です」と返ってくることは少ないです。大抵、2点とか3点と返ってきます。その点をつけた理由を聞くと、具体的に状態を表現してもらえます。「思ったより上手くできてるやん」となることも。

アンガー・マネージメント(怒りのコントロール)に、怒りの強度を数値化するテクニックがあります。怒りを客観的に見られるようになると、怒りをコントロールしやすくなります。

うつ病の認知行動療法で用いられる行動活性化では、自分を観察しながら段階的に行動を増やしていきます。活動の内容とそのとき気分を数値化して活動記録表に記入します。気分がプラスになる行動を増やしていきます。

自分の状態を数値化する習慣がつけば、白黒思考に陥りにくくなるかもしれませんね。

話を戻します。カウンセリングを申し込んでから当日までの間に、悩みや辛さの強度が下がるのは、珍しいことではありません。今回のような劇的な変化はまれですが、多少なりとも変化が生じるのは、むしろ当然のことかもしれません。変化の要因は以下が考えられます。

  • 誰にも話せなかったことを初めて聴いてもらえる期待感、安心感。
  • 何をどのように話そうと考えることにより整理が進んだ。
  • カウンセリングを予約したことをパートナーや家族に話したのをきっかけに、話し合いの場を持つことができた。

カウンセリングルームに入られた途端、涙ぐむ方がいらっしゃいます。ずーっと耐えてこられたのだと思います。ずーっと踏ん張ってこられたのだと思います。○日後に話を聴いてもらえると思ったら、期待感や安心感が生じて、良い変化のきっかけになりうると思います。

できれば考えたくない、目を背けていたいと思うけど、カウンセリングに行ったら話さないといけない。そうして思考を巡らせているうちに整理が進んで、「思っていたよりたいしたことがないのかも」「何とかなりそうな気がしてきた」ということも起こりえます。

夫婦の相談でよくあるケースが以下です。

  1. 「まずは一人で行きます」と申し込む
  2. パートナーにカウンセリングに行くことを報告
  3. 報告をきっかけに話し合いが行われる
  4. 良い話し合いができる
  5. カウンセリングなしでがんばれそうと思う
  6. 予約をキャンセルする

当方は事業としてカウンセリングルームを営んでいます。キャンセルはないに越したことはありません。しかし、見方を変えると、面接ナシで解決するのは究極のカウンセリングかもしれません。でも、予約日が近づいてからのキャンセルは、できるだけご勘弁下さい。m(_ _)m

何かを変化させたいと思ったら、動いてみることが大切だと示す例だと思います。カウンセリングは安全度が高いので、選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。