しつこいイライラとの付き合い方

執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)

約2ヶ月前、コーチングの講座に衝動買いのように申し込みをしてしまいました。少し後悔しましたが数回講座に参加してみて、学ぶことに無駄はないと思いました。しっかり勉強します。

ある日のワーク中に、イライラの対処が話題に上がりました。私が少し発言したのですが、うまく順序立てて話せませんでした。リベンジのつもりで書いています。

「下げる」と「考える」

講師から紹介された対処は呼吸法でした。お腹が膨らんだり、しぼんだりする感じや、空気が鼻や口から入ったり出たりする感触を感じながら、ゆったり呼吸して気持ちを和らげます。

講師に話を振られたスタッフは、「私は徹底的に分析する」と答えました。出来事をどのように捉えるのが現実的か、合理的か、自分にとって有益か、等々を徹底的に考えて結論を出すとのことでした。

前者は怒りを「下げる」対処です。怒りを引き起こす人から物理的に離れるなどして、熱くなった感情を冷まします。怒りで熱くなった状態は、いわゆる「闘うか逃げるか反応」状態です。この状態で、物事を多面的に見て冷静に判断することはできません。「下げる」対処が正解です。

後者は熱が冷めた冷静な状態で行う「考える」対処です。冷静だからこそ、物事を多面的に見て、どのように捉えるのが現実的か、合理的か、自分にとって有益か、等々を分析できます。

どちらも正解ですが、これだけでは足りないことがしばしばあります。

同じようなことで毎回、出来事の大きさに見合わないくらい過剰にイライラしてしまう。何かのおりにふと思い出してイライラしてしまう。このようなしつこいイライラには、「下げる」と「考える」に「触れる」を加える必要があります。

私がワーク中にうまく説明できなかったのは、この「触れる」についてです。

しつこいイライラを作るのは消化されていない記憶

通常、(不快な)出来事の記憶は時間とともに消化されていきます。時間が経つにつれて劣化して、時間軸においても記憶においても過去になります。なくなるわけではありませんが、その記憶に振り回されることがなくなります。

消化のプロセスが滞ると、記憶はいつまでもみずみずしいまま残ります。時間軸においては過去ですが、感覚的には今も余韻が続いているようなピリピリした状態です。ピリピリしているので、小さな刺激に大きく反応します。

他者の些細な言動に、見合わない大きさのイライラを感じて、イライラが持続するのはこのためです。

消化のプロセスを止めるのは回避

消化のプロセスが阻害されるのは、ガマンしたり、忘れようとしたりして、その記憶に触れることを回避するからです。

ガマンや忘れようとする試みが常にダメなわけではありません。自分にとって影響度の小さい出来事であれば、ガマンと忘れようとする対処で消化されるでしょう。何かの折りにふと思い出してイライラを生むような記憶は、回避(ガマンや忘れようとする対処)によって維持されます。

ということは、回避をやめて積極的にイヤな記憶を思い出して、そのときの感情を味わうことが対処法になります。それを繰り返すことによって、その記憶を消化するプロセスを進めます。これを「触れる」と表現することにします。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)を維持するのも回避です。治療では、思い出すのを回避しているトラウマ体験を自ら思い出して語るという方法が行われます。そうして、トラウマ記憶を消化させます。当然ながら、専門家と一緒に取り組みます。

どのように「触れる」のか

ただ記憶を淡々と思い出すだけでは足りません。そのときの感情をしっかり感じることが必要です。とはいうものの、感情が高ぶりすぎるのも良くありません。高ぶりすぎだと感じたら、ゆっくり腹式呼吸するなどしてコントロールします。最高の怒りが10段階で10とすると、6程度にとどめたいところです。

そのときの感情をしっかり感じるには、そのときの状況を詳細に思い出すことです。「あのとき、誰々がこんなことを言って、めっちゃ腹立ったなあ−」というのは、大ざっぱすぎてダメです。

以下のように具体的に思い出します。

ある日の16時頃、隣の部署のAさんの仕事にトラブルが発生した。対処するには残業するしかない。その日の朝、Aさんはプライベートで大切な予定があり、早く退社したいと聞いていた。

私は他部署の同期と食事に行く予定だったけど、Aさんの様子を見ると放っておけなかった。食事をキャンセルしてAさんを手伝った。

何とか処置を終えるとAさんはダッシュで帰っていった。早めに終われれば食事に合流しようと思っていたけど、合流するには遅すぎたので、一人で適当に食事を済ませて帰宅した。

翌日の朝、同期が私のところまで来て、「昨日はどうしたの?あなたが来なくてみんな残念に思ってたよ」と言われた。「うん。トラブルがあって。ごめんね」と答えた。

すると、そのやりとりを聞いていたAさんが突然、「誰も手伝ってなんて言ってないでしょ!あなたが勝手に手伝っただけでしょ。人のせいにしないでよ!」と強い口調で言ってきた。その勢いにビックリして動揺してしまった。何も言えなかった。

その日は一日中、気まずい思いをしながら過ごした。帰宅して落ちついたら、怒りがこみ上げてきた。人の好意を何だと思っているのか。ムカムカして中々寝付けなかった。

それ以来、Aさんの姿が見えるとモヤモヤする。声が聞こえてくるだけでイライラする。ガマンしていると、他の人のちょっとした言葉にもイライラするようになってきた。

こんな感じで思い出します。誰かに聞いてもらったり、紙などに書き出すのも有効です。

ここでは、評価や分析など「考える」ことはしません。ただ感じるだけです。何度も何度も感じることを繰り返すことによって、みずみずしい記憶を劣化させていきます。

「下げる」「触れる」「考える」で対処

整理します。怒りの強度が強いときは、「下げる」ことだけを考えます。小さな刺激に大きく反応しやすい状態のため、新たな刺激を入れないことが大切です。その場を離れたり、大きく呼吸するなど「下げる」対処を行います。

次に「触れる」です。日常的にピリピリした状態が続いているようなとき。状況の大きさに見合わない大きさのイライラを頻繁に感じているとき。などなど、しつこいイライラが続いているときは、元となる出来事の記憶が消化されていないと考えられます。「触れる」を繰り返して初夏を促します。

また、新たに起きたイライラする出来事に対して、その場はガマンや忘れる対処で凌ぐことがあると思います。その出来事についても、後に「触れて」早めに消化することが望ましいです。

最後は「考える」です。自分の考え方や受け取り方を振り返り、偏っていないかを検討したり、現実的・合理的な考え方を導き出すなどを行います。

感情ケアプログラム

以上の内容は、下園壮太先生の「感情ケアプログラム」と私のカウンセラーとしての経験によるものです。私は「感情ケアプログラム」の指導者コースを修了しています。

感情を適切に扱えることは自信に直結します。「自分に自信がない」で悩む方には、「感情ケアプログラム」のエッセンスを取り入れた支援を行っています。

<参考>
下園壮太(2017)「人間関係の疲れをとる技術」朝日新聞出版
水島広子(2015)「対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD」創元社