高校の探究学習発表会で講評者を務めさせていただきました

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

先日、ある高校で行われた探究学習の中間発表会に、講評者として参加させていただきました。高校・高校生を対象とした授業プログラムを提供する企業からの依頼で、1年生の「行動・心理学」をテーマとしたグループの発表に対して講評を行うというものでした。

グループ学習のシーン

探究学習とは

まず、探究学習について簡単にご説明します。これは2022年度から高校で必修化された「総合的な探究の時間」のことで、文部科学省が学習指導要領で定めた正式な教育課程です。

予測困難な社会を生き抜くため、知識の暗記ではなく、「自ら課題を見つけ、探究し、まとめ、表現する力」、つまり思考力・課題解決能力の育成を目的としています。

生徒たちは、【課題の設定 → 情報の収集 → 整理・分析 → まとめ・表現】という一連のサイクルを体験することで、主体的に学ぶ力を養っていきます。

専門外のテーマへの戸惑いと、引き受けた理由

今回担当する探究テーマには「行動心理学」「恋愛」「犯罪心理学」などが含まれていました。夫婦カウンセリングを専門とする私にとって、正直なところ専門外のテーマがほとんどです。

最初は戸惑いもありましたが、探究学習について調べていくうちに、探究学習とは、結論そのものより「探究するプロセスを体験して学ぶもの」ということに気づきました。そう考えたとき、カウンセラーとして日々行っていることと共通する部分が多いことに気づきました。

ブリーフセラピーでは、クライエントの悩みや問題について、原因や維持要因の仮説を立て、主に対話によって得た情報からそれらを検証し、解決につながる提案を行います。このプロセスは、まさに探究学習で生徒たちが体験するプロセスと重なります。

ブリーフセラピーとは、「必要なことにしぼって、できるだけ効果的に変化を起こす」ことを重視したアプローチです。短期療法と訳されますが、単に「短い期間で終わる」という意味ではありません。

専門分野でなくとも、「探究のプロセス」という視点からフィードバックできることがあるだろう。そう考えて、この依頼を引き受けることにしました。

当日の様子

当日は、行動・心理学グループの7つの班が発表を行いました。発表形式は、各班5分の発表と5分の講評という構成です。

生徒たちの発表を聴いて、まず驚いたのは、グループメンバー間の意見や議論を整理してまとめる能力の高さでした。これは担当の先生もおっしゃっていたことですが、限られた時間の中で、複数の意見をひとつの発表として構成する力は、大人でも難しいものです。

また、ある班では「幸せ」という抽象的なテーマを扱っていました。「幸せとは何か」という問いに対して、まず具体的な言葉で定義づけを行い、さらにそこから具体的な探究項目を設定するという組み立てができていたことに驚かされました。

恋愛をテーマにした班が複数あったのも、高校生らしい瑞々しさを感じて印象的でした。

生徒たちに伝えた3つのメッセージ

私からは、各班への個別のコメントに加えて、全体に向けて以下の3つのメッセージをお伝えしました。

1. 結論よりもプロセスに価値がある
この探究学習の意義は、導き出された結論そのものより、その結論に至るプロセスにあると思います。仮説を立て、検証し、試行錯誤する。その過程こそが、皆さんの力になります。

2. 既存の理論はツールとして活用する
心理学には多くの既存理論があります。これらは、考えを深めるためのツールとして活用してください。理論を学ぶことがゴールではなく、それを使って自分たちの独自の結論を導き出すことに価値があります。

3. 間違いを恐れず、探究を楽しむ
探究活動に唯一の正解や間違いはありません。むしろ、「わからない」「もっと知りたい」という気持ちこそが探究の原動力です。恐れずに議論を楽しみ、探究を続けてほしいです。

カウンセラーとして感じた探究学習との共通点

今回の経験を通して、改めて感じたのは、探究学習とカウンセリング、特に私が専門とするブリーフセラピーとの共通点です。

ブリーフセラピーでは、問題の原因を深く掘り下げるよりも、「何がうまくいっているか」「どうすれば解決に近づけるか」というリソースや例外に注目します。つまり、プロセスを重視し、クライエント自身の可能性を引き出すアプローチです。

探究学習も同様に、「正しい答え」を教えるのではなく、生徒たち自身が考え、試し、発見していくプロセスを大切にしています。

また、カウンセリングでは「クライエントの語り」を通して理解を深めていきますが、探究学習でも「自分たちの言葉でまとめ、表現する」ことが重視されます。

このような共通点があるからこそ、専門外のテーマであっても、プロセスに着目した講評ができたのだと思います。

おわりに

高校生の探究心と、これからの可能性を強く感じた、貴重な一日となりました。

これからの社会では、知識を持っているだけでなく、問題を発見し、情報を集め、考え、表現する力がますます重要になります。探究学習は、まさにそのための土台を作る学びだと感じました。

今回は中間発表会でしたが、2月に行われる全体発表会にも講評者として呼んでいただけることになりました。生徒たちが今回のフィードバックを受けて、どのように探究を深めていくのか、今から楽しみにしています。

心理職として、今後もこのような教育現場との関わりを大切にしていきたいと思います。

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