他者への「ありがとう」の一言が、自分をポジティブにしてくれる

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

他者への「ありがとう」は、自分をポジティブにしてくれる

先日、以下のXのポストが話題になりました。

このシンプルなやりとりに多くの人が心を動かされたのは、23万を超える「いいね!」からも伺えます。

リプライやリポストには、「私も同じような体験をした」「想像以上に喜んでもらえてうれしかった」といった声がたくさん寄せられています。

私自身も、このポストを見て感激した一人です。「ありがとう」や「素晴らしい」といった感謝の言葉を相手に伝えることが、こんなにも自分自身の心を温かくしてくれるものだということに、改めて気づかされました。

なぜ、他人をほめたり感謝したりすると、気持ちがポジティブになるのでしょうか。今回は、この素朴な疑問について、考えてみたいと思います。

なぜ他人をほめると自分がポジティブになるのか

代表的なものを挙げてみます。

人とのつながりでポジティブな気持ちが生まれる

他者をほめると、多くの場合、相手から感謝や好意的な反応が返ってきます。このやりとりは、その瞬間、私たちの気持ちを明るくしてくれます。

コーヒーメーカーの例でも、投稿者の素直な感謝に対して、企業側から温かい返事が届きました。このようなやりとりを通じて、「自分の言葉には他者に良い影響を及ぼす力がある」ということを実感でき、その場で前向きな気持ちになれるのです。

「自分っていいかも」と思える瞬間

ほめることで他者とのつながりを感じたり、既にある関係においては関係性が深まり、社会的なつながりを実感できます。人間は本来、社会的な存在です。良好な関係は、私たちの気持ちを明るくしてくれます。

「ありがとう」という言葉一つで、見知らぬ企業の担当者との間にも温かいつながりが生まれる。これは、その時々で「自分って悪くないかも」という気持ちをもたらしてくれます。

「自分にもできることがある」という実感

「相手を喜ばせることができた」という体験は、自己効力感(自分には何かを成し遂げる力があるという感覚・能力面の自信)を高めます。

普段「人の役に立てているかわからない」と感じている人にとって、相手からの明確な感謝の反応は、一時的であっても自分の存在価値を確認できる貴重な機会となり得ます。

気づきが自分をポジティブにしてくれる

「自分の言葉が相手にとって想像以上にうれしいもの」だと気づくことは、自分の気持ちをポジティブにしてくれることを理解していただけたと思います。同時に、その「気づき」がむずかしいと思う人もいらっしゃるでしょう。

なぜ自分では気づきにくいのか

自分が他者に与えている影響は、自分の視点からは見えないものです。相手がどれほど感謝しているか、どれほど助けられているかは、相手の立場に立たなければ分からないものです。

また、日常的に行っている親切な行動や配慮は、自分にとって「当たり前のこと」として認識されがちです。その価値に気づくのは困難です。

気づきは他者を通じて起こるもの

他者からのフィードバックは、自分では見えない角度からの情報を提供してくれます。「あなたのおかげで助かった」という言葉は、自分の影響力の客観的な証拠となります。

「自分にはこんな力があったのか」という発見は、その瞬間の気持ちを明るくしてくれます。これまで気づかなかった分、その効果は想像以上に大きくなります。

小さな変化の積み重ね

気づきが生まれると、以下のような流れが始まります。

  1. 感謝を伝える
  2. 相手が想像以上に喜ぶ
  3. 自分も嬉しくなる
  4. またやってみたくなる

この小さな体験の積み重ねにより、感謝を伝える行動が習慣化され、少しずつ自分の気持ちがポジティブになっていきます。

特に効果的なのは「普段大変な思いをしている人」への感謝

個人的に、リプライの中で特に印象的だったのは、お客様相談室など、普段クレームを受ける機会の多い仕事をしている方々からの声でした。

私、ジーンと来ました。

カスタマーサービスに従事する人たちは、日常的に数多くのクレームを受けているはずです。おそらく、クレームの大半は傾聴に値しないもの(クレーマーによるもの)で、真摯に受け止めるべきものは少数と予想します。

それがわかっていても、怒鳴られたり、長時間ネチネチと文句を言われると、意識するしないに関わらず、心が削られているはずです。

そのような人たちにとっては、お客様から直接伝えられる喜びの声、お礼の声は、カウンセリングより遙かに心を健康にしてくれるものだろうと思います。

日常的にクレーム対応をしている人の心理

日常的にクレーム対応をしていると、「自分は人を不快にさせる存在かもしれない」という感覚を持ってしまうことがあります。

お客様からの感謝の言葉は、「自分(たち)は人の役に立てる」という気持ちをその場で回復させてくれる貴重な体験となるはずです。

これは、私たちが日常生活で出会う様々なサービス提供者の方々についても同じことが言えます。

  • コンビニやスーパーの店員さん
  • 宅配業者の方々
  • 清掃員の方々
  • 公共交通機関の職員の方々

こうした方々への感謝の言葉は、私たちが想像している以上に大きな意味を持っているはずです。

今日からできる実践

これらの実践は、自分をポジティブにさせてくれますし、その積み重ねは自分に対する見方もポジティブに変えてくれるはずです。「自分に自信を持てない」悩みを抱えている方には、特におすすめしたいと思います。

今日からできる実践を挙げます。

良いこと探しを意識する

まずは、良いこと探しを意識することからです。

具体的なシチュエーション別アプローチ

コンビニやスーパーで
  • 「ありがとう」に少し感情を込める
  • 「お疲れさまです」の一言を添える
宅配や配送サービスで
  • 「いつもありがとうございます」
  • 「助かります」の一言
お客様相談室や企業への連絡
  • 「良い商品やサービスについて、感謝のメッセージを送る
  • 具体的にどの点が良かったかを伝える
オンラインサービスで
  • 良いレビューを書く
  • SNSで具体的な感謝を表現する

相手の反応を観察してみる

感謝を伝えた後の相手の反応を意識的に観察してみます。表情の変化、声のトーン、返答の内容などから、自分の言葉の影響力を実感できるはずです。

過度な期待はせず、でも続けてみる

先ほど、「自分に自信を持てない」悩みを抱えている方には、特におすすめと言いました。ただし、劇的な効果はありません。1回の効果は小さなものです。それを続けることに意味があります。

1回の効果は一時的なもの

1回「ありがとう」と言っただけで、劇的に自分が変わるわけではありません。その時は気持ちが明るくなっても、その効果は一時的なことが多いでしょう。

過度な期待をして「全然変わらない」とがっかりする必要はありません。小さな変化を大切にすることが重要です。

実践を積み重ねているうちに

しかし、感謝を伝えることを続けているうちに、ふと気づく瞬間が来るはずです。

「あれ、最近『自分はダメだ』と思うことが減ったかも」 「なんだか人と話すのが前より楽になった気がする」 「自分のことを否定的に考える時間が短くなったな」

このような小さな変化に気づく瞬間が、実践を続けた人には訪れます。

小さい変化の先に大きな変化がある

日々の変化は本当に小さなものです。毎日鏡を見ていても髪の毛が伸びていることに気づかないように、自分の心の変化も日常的には感じにくいものです。

しかし、小さい変化の積み重ねの先に大きな変化があります。半年後、1年後に振り返ったとき、「自分は変わっている」と実感できる日が来るはずです。

まとめ:小さな「ありがとう」が作る小さな、でも確実な変化

一杯のコーヒーへの感謝から始まった小さなやりとりが、なぜこれほど多くの人の心を動かしたのか。それは、私たちの誰もが持っている「人とつながりたい」「人の役に立ちたい」という根本的な欲求に触れたからではないでしょうか。

他者への感謝は、相手を喜ばせるだけでなく、自分の気持ちをポジティブにしてくれる貴重な行為です。特に、普段大変な思いをしている方々への感謝は、想像以上に大きな意味を持ちます。

そして何より、「自分には他者に良い影響を及ぼす力がある」ということに気づくことそのものが、あなたの気持ちを前向きにしてくれるでしょう。

劇的な変化を期待する必要はありません。今日から、身近な人への「ありがとう」を、少し意識して伝えてみませんか?その小さな一歩が、あなた自身の心にも、そして周りの人の心にも、小さいけれど確実な温かい変化をもたらしてくれるはずです。

印象に残ったポストを紹介

自分事ではなくても、読んでいるだけで良い気持ちになりませんか。自分が関わっていたら、気持ちアゲアゲになると思います。この積み重ねは健全な自尊心を育ててくれるはずです。

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