やさしさという残酷

執筆者:公認心理師・山崎孝

イチローさんの言葉が話題になっています。

「今の時代、指導する側が厳しくできなくなって。何年くらいなるかな。僕が初めて高校野球の指導にいったのが2020年の秋、智弁和歌山だね。このとき既に智弁の中谷監督もそんなこと言ってた。なかなか難しい、厳しくするのはと。でもめちゃくちゃ智弁は厳しいけど。これは酷なことなのよ。高校生たちに自分たちに厳しくして自分たちでうまくなれって、酷なことなんだけど、でも今そうなっちゃっているからね。(中略)

でも自分たちで厳しくするしかないんですよ。ある時代まではね、遊んでいても勝手に監督・コーチが厳しいから全然できないやつがあるところまでは上がってこられた。やんなきゃしょうがなくなるからね。でも、今は全然できない子は上げてもらえないから。上がってこられなくなっちゃう。それ自分でやらなきゃ。なかなかこれは大変」

イチローも警鐘を鳴らした…「大人に叱ってもらえない」Z世代が直面する「やさしさという残酷」(現代ビジネス) – Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/fb53928b484aad50dced29a4eef7986608b457d5 (令和5年11月21日(火)閲覧)

整理します。

  • ある時代までは、できない奴でも、厳しい監督・コーチが一定のレベルまで引き上げてくれた。
  • 今の時代、厳しい指導ができなくなった。自分で自分を律することが求められている。
  • これは高校生にとって過酷である。

これは格差社会であるという見方があります。

自分で自分を育てられる人は突き抜けて、それができない人は置いていかれる。

目標に向かって、自分で自分を育てなければならないことに加えて、多様性の時代は目標設定そのものをむずかしくもしています。多い選択肢は選択の決断をむずかしくします。

迷って当たり前です。

このような時代により求められる能力は、他者に頼る能力だと思います。「自立とは依存先を増やすこと」という言葉があります。自分のことは自分でやる。自分でどうにもできないときには他者を頼る。この能力は、もはや必須と言えるかもしれません。