執筆者:山崎 孝(公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士)
カウンセリングとは
カウンセリングを簡単に説明すると、「心理的な問題や悩みについて専門的な援助を行うこと」となります。心理療法、コーチング、コンサルティングと比較しながら、もう少し突っ込んで説明してみたいと思います。
カウンセリングの定義
まずはカウンセリングの定義について、もう少し深めてみたいと思います。心理学部の大学生などに広く利用されている書籍には以下のように書かれています。
カウンセリング(counseling/ counselling)にはさまざまな定義の仕方がある。一般的にいえば、カウンセリングとは、言語的・非言語的コミュニケーションを通して、専門的な立場から個人が悩みを解決し、心理的な成長を遂げるように援助することであるといえよう。
無藤隆・森俊昭・遠藤由美・玉瀬耕治『心理学 新版 (New Liberal Arts Selection)』有斐閣, 2004年
「解決」と「成長」の援助であるとしています。
日本カウンセリング学会は以下のように定義しています。
カウンセリングとは、カウンセリング心理学等の科学に基づき、クライエント(来談者)が尊重され、意思と感情が自由で豊かに交流する人間関係を基盤として、クライエントが人間的に成長し、自立した人間として充実した社会生活を営むのを援助するとともに、生涯において遭遇する心理的、発達的、健康的、職業的、対人的、対組織的、対社会的問題の予防または解決を援助する。
すなわちクライエントの個性や生き方を尊重し、クライエントが自己資源を活用して、自己理解、環境理解、意思決定及び行動の自己コントロールなどの環境への適応と対処等の諸能力を向上させることを支援する専門的援助活動である。
楡木 満生・田上 不二夫編『カウンセリング心理学ハンドブック[上巻]』金子書房,2011年
成長、自立、自己という単語が目立ちます。カウンセラーが答えや解決策を提示するのではなく、クライエントが自力で悩みを解決して、人間的な成長を遂げることを援助します。クライエントが自分自身のカウンセラーになることを援助すると表現されることもあります。
アドバイスより、クライエント自身が内省を深めて自ら気づきを得るように援助するのが基本となります。まったくアドバイスしないということではありません。要望や必要に応じて、何らかの提案やアドバイスを行うこともあります。
カウンセリングと他の対人援助
カウンセリング以外の対人援助には、コンサルティング・コーチング・心理療法があります。
コンサルティング(コンサルテーション)
コンサルティングは主にビジネスの分野で用いられます。クライアントは個人より、企業や機関であることが多いです。ある分野の専門家であるコンサルタントがクライアントの依頼を受けて、課題や問題の解決策を提案することです。
カウンセリング・心理療法の分野では、コンサルテーションと表記するのが一般的です。他の分野の専門家(学校の先生など)に対して、心理的な問題を抱える人(生徒など)を効果的に援助できるように援助することを意味します。
先生が生徒を効果的に援助できるようになると、学校の援助能力が向上します。カウンセリング・心理療法におけるコンサルテーションは、コミュニティの援助能力向上を援助するのが目的となります。
ちなみに、コーチングやコンサルティングでは「クライアント」、カウンセリング・心理療法では「クライエント」と表記するのが一般的です。元の英語はいずれも「client」です。特に理由はなく、単に慣例と思われます。
コーチング
コーチングは、人材開発を目的とする技法の一つで、コミュニケーションを通してクライアントの目標達成を支援する手法です。行われていることは(見た目には)カウンセリングと大きく変わりません。カウンセリングとの違いをあげてみます。
コーチングでは現在と(目標達成した)未来に焦点を当てます。カウンセリングでも解決後の未来に焦点を当てます。加えて、何が問題なのか、何が問題を維持しているのかという観点から、現在や過去にも焦点を当てます。
カウンセリングでは、学派にもよりますが、必要に応じて提案やアドバイスを行います。コーチングではアドバイスは行いません。クライアントの自力での目標達成を支援するという立場を堅持します。
カウンセリングには、それぞれの学派の理論があります。理論を基盤に援助スキルが構築されています。コーチングには理論らしきものがありません。コミュニケーションスキルと哲学・倫理綱領があるのみです。
心理療法
カウンセリングは職業相談や進路相談など、重篤でない悩みや問題解決の援助から始まりました。また、カウンセリングの定義において紹介したように、人間的な成長を支援するという面もあります。
心理療法はフロイトの精神分析から始まりました。神経症の治療を目的として生まれました。その後、フロイトの理論を肯定または否定する形で様々な学派が生まれ発展してきました。いずれも精神疾患などの治療を主たる目的としています。
広義のカウンセリング = 狭義のカウンセリング + 心理療法
現在、日本ではカウンセリングと心理療法は、ほぼ同じ意味で使われています。【(広義の)カウンセリング =(狭義の)カウンセリング + 心理療法】です。カウンセリングといえば、心理療法も含む意味と考えて間違いありません。
精神科・心療内科
「心療内科でうつ病と診断されて、○ヶ月間の休職中です」のように、メンタルの不調を診てもらうのは心療内科という認識があると思います。
うつ病、不安症、統合失調症などの精神疾患を扱うのは精神科です。心療内科で扱うのは、心が原因で身体に不調が生じる心身症です。過敏性腸症候群などがこれに当たります。
精神科より心療内科のほうが柔らかく感じるので、心療内科を標榜するメンタルクリニックが多いようです。HPで医師の経歴を拝見すると、精神科で実績を積まれた先生が大半のようです。
どちらもお薬による治療が中心です。
援助の対象
改めて援助の対象を整理します。
カウンセリングの対象者は、心理的な健康度が比較的高い人です。アメリカのTVドラマでは、「今からカウンセリングに行くから」のようなシーンが描かれます。心理療法と比較するとカジュアルな感じです。心理療法は「治療的」です。精神疾患の方など、主に心理的な健康度が低い人が対象となります。
カウンセリングと心理療法は、日本ではほぼ同じ意味です。適用範囲が広いので、一人のカウンセラーがすべてを網羅するのは困難です。受ける際には、それぞれのカウンセラーが得意とする相談や専門分野などを事前に確認しておくのが望ましいと思います。
コーチングの対象者は、心理的な健康度が高い人です。悩みや問題を抱えている方には、まずはそれらをクリアにしてからお越し下さいという対応になります。手前味噌になりますが、当方ではカウンセリングからコーチングまでをシームレスに提供でます。