うつ病・うつ状態の情報については以下のページをご覧下さい。
昨日(2013年10月20日)放映された「NHKスペシャル 病の起源 うつ病 ~防衛本能がもたらす宿命~」が興味深かったので備忘録として。

【番組のホームページ】
NHKスペシャル 病の起源 第3集 うつ病 ~生存戦略が生んだ悲劇~(現在はリンク切れ)
うつの原因は扁桃体の暴走
脳の感情に関わる領域は大脳辺縁系です。その中心となっているのが扁桃体です。過剰な恐怖や不安が続くと扁桃体が暴走して、ストレスホルモンが過剰に分泌されます。その状態が続くと脳がダメージを受けて萎縮して、意欲や行動などが低下します。
恐怖は外敵などの危機から身を守るための防衛本能です。その防衛本能がうつ病の原因になるのは何とも皮肉なことです。
扁桃体を暴走させるもの
人類の進化に伴って、うつ病の種になるものが増えていきました。
天敵
生物の進化の過程で最初に脳を持ったのは魚。魚が外敵を察知すると扁桃体が活動します。そして、ストレスホルモンが分泌されて、全身の筋肉が活性化します。魚はこの仕組みで運動能力を高めて素早く逃げます。危険が遠ざかればストレスホルモンが減少します。
魚もうつ病になるんですね。ゼブラフィッシュの水槽に天敵の魚を入れると、最初は逃げ回りますが、やがてうつ状態になって動きがなくなりました。人間のうつ病とまったく同じです。
孤独
チンパンジーもうつ病になるんですね。チンパンジーは高度な集団社会を築いているそうです。知りませんでした。集団社会を形成する目的は助け合いや支え合い、その先にあるのは安全と言ってもよさそうです。
うつ病のチンパンジーは、感染症にかかったため隔離されていました。孤独がうつ病を引き起こしました。
記憶
人類の祖先はアフリカのサバンナで暮らしていました。常に猛獣に襲われる危険と隣り合わせでした。実際に危険な体験をしたり、仲間が殺されたりする体験をすることも少なからずあったでしょう。同じ出来事を避けるためには、そのときのことを記憶する必要があります。
身を守るために記憶します。その一方で、恐怖体験を繰り返し思い出すことが、扁桃体を暴走させる原因になります。
言葉
人類は進化の過程で言葉を手に入れました。言葉によって、他者の体験を自分の体験のように取り入れられるようになりました。そうして、他者の恐怖体験も扁桃体を活動させるようになりました。
皮肉なことに、人類の進化に伴って、うつ病の種が増えていきました。
うつ病と無縁の人々
研究者たちがタンザニアのハッザの人たちに、うつ状態の聞き取り調査を行いました。21項目からなるうつ状態のテストです。11点以上は「軽いうつ状態」、31点以上は「重いうつ状態」と判断されます。
ハッザの人たちの平均は2.2点でした。アメリカ人の平均は7.7点、日本人の平均は8.7点です。ハッザの人たちは、とても健康な心の持ち主と言えます。
参考:
特集:ハッザ族 太古の暮らしを守る 2009年12月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP
うつ病と無縁の理由
平等
ハッザの人たちは狩りをして食料を得ています。狩りを成功させるには集団の結束が求められます。そのためには、すべての人が平等でなければなりません。実際、ほぼ100%平等が保たれているそうです。
研究者たちは、ハッザの人たちの極めて平等な暮らしぶりが、現代社会の人々が持つ悩みから解放していると考えました。
お金を分け合う実験
平等と扁桃体の関係を探るおもしろい実験が紹介されていました。自分と相手にお金を分けます。そのときの扁桃体の活動を調べます。以下の3つのケースにおいて行われます。
- 自分が損をするように分ける
- 公平に分ける
- 自分が得をするように分ける
自分が損をするとき、扁桃体は激しく活動しました。また、自分が得をするときにも扁桃体は激しく活動しました。公平に分けたときのみ、活動は穏やかでした。
「人と人との関係がより重要になってきた」と研究者はコメントしました。
文明の発展により平等が崩れた
狩猟採集社会では集団の結束が必要でした。結束のために食料を分け合うなど平等が保たれていました。その平等がうつ病を防いてくれました。
うつ病社会への変化は文明の発展がもたらしました。狩猟採集社会から農業を中心とした社会への大転換です。生産量が飛躍的に向上して、余った穀物を蓄えられるようになりました。穀物は階級に応じて分けられるようになり、平等な社会が崩れました。争いが生まれ、嫌な記憶や孤立が広まっていきました。
最新のうつ病治療
最新のうつ病治療として2つの治療法が紹介されていました。
脳深部刺激(DBS)
脳の深部に電気刺激を与えて、その部位の活動を抑えるものです。うつ病治療では扁桃体に刺激を与えるようです。
参考:
脳深部刺激療法 – Wikipedia
深部脳刺激療法(DBS)【名古屋市立大学病院 脳神経外科学 診療案内】脳神経外科学
生活改善療法(TLC)
スタッフとの信頼関係を築き、地域活動に参加するなど「社会的な結びつき」を強めることを重視しています。定期的な運動など生活習慣の改善にも取り組みます。
「人間本来の暮らしを取り入れることによってうつ病から解放されたのです」と力強くおっしゃる患者が紹介されていました。
その方とは別に、7年間うつに苦しんできて、生活改善療法によって回復の道へ進み始めた患者も紹介されてました。福祉施設でアルバイトができるまで回復されてました。
「人のふれあいって、あいさつから大事なんだなと思いました」の言葉は同感です。最後はここに行き着くと思います。心が本当に癒されるのは、人と人との関わりにおいてです。
うつ病患者の日々の生活パターンを観察すると、楽しみや喜びを感じる行動が不足していたり、まったくないこともあります。生活パターンを把握して新たな行動を取り入れるのは、認知行動療法でも行われる手法です。
新しいものがまったくのゼロから生み出されるのではなく、先人が築いた功績に新たな知見を積み重ねて発展を続けています。