クライエントの安心と安全の確保
クライエントの安心・安全が確保されていることは、カウンセリングが成立する前提条件の一つです。そのため、カウンセラーには秘密保持義務(守秘義務)が課せられています。
公認心理師法には以下のように定められています。
(秘密保持義務)
第四十一条 公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。
日本臨床心理士会の倫理綱領には以下のように定められています。
第2条 秘密保持
会員は,会員と対象者との関係は,援助を行う職業的専門家と援助を求める来談者という社会的契約に基づくものであることを自覚し,その関係維持のために以下のことについて留意しなければならない。
1 秘密保持
業務上知り得た対象者及び関係者の個人情報及び相談内容については,その内容が自他 に危害を加える恐れがある場合又は法による定めがある場合を除き,守秘義務を第一とすること。
2 情報開示
個人情報及び相談内容は対象者の同意なしで他者に開示してはならないが,開示せざるを得ない場合については,その条件等を事前に対象者と話し合うよう努めなければならない。また,個人情報及び相談内容が不用意に漏洩されることのないよう,記録の管理保管 には最大限の注意を払うこと。
3 テープ等の記録
面接や心理査定場面等をテープやビデオ等に記録する場合は,対象者の了解を得た上で行うこと。
家族相談士の倫理綱領には以下のように定められています。
<秘密保持>
第3条
家族相談士は、専門職として知り得た秘密の保持には、細心の注意を払わなければならない。その公表に当たっては:(a)家族の生命の危機などが明らかで、緊急の事態にあると判断される時、(b)法律上の要請がある時以外は、必ず家族の同意を得なければならない。
家族であっても秘密保持義務が優先されます
たとえご家族であっても秘密保持義務が優先されます。ご家族から「うちの妻(夫・子ども等)は何を話していましたか」などのお問い合わせを受けても、一切お話しません。初回面接でその旨をお伝えしてからカウンセリングを開始します。
秘密保持義務の例外
秘密保持義務には例外があります。代表的な例外は、クライエント自身や他者の安全確保が優先されるときです。
自傷他害の危機が現実的に起こりうる、もしくは起きていると考えられるとき
クライエント本人もしくは他者の身体・生命に差し迫った危機がある場合は、秘密保持義務より安全確保を優先します。
- 自殺を実行する恐れがあるとき。
- 虐待が疑われるとき。
- 配偶者の暴力で負傷していると認められるとき。
- 他者に危害を加える行為が現実的に起こりうると判断されるとき。
- その他。
スーパービジョンや研究活動などにおいて専門家同士で話し合う場合
相談内容を個人を特定できないように加工して、スーパービジョン(カウンセラーがスーパーバイザー(指導者)に指導を受けること)や事例検討会などの研究活動に使用させていただくことがあります。スーパーバイザーや研究活動の参加者も秘密保持義務を負います。
当カウンセリングルームでは、初回面接にて以上の内容を説明して許可を得るようにしています。許可をいただけるケースが大半ですが、拒否される方も中にはいらっしゃいます。拒否された場合は一切使用しません。
クライエント自身が開示を許可したとき
家族や夫婦のカウンセリングなどで、あからじめ情報を共有する範囲をクライエントに確認して、許可を得る場合があります。実際には、秘密保持義務や安全確保の重要性を理解されている方が多く、ご家族から開示を求められるケースはほとんどありません。
公認心理師現任者講習会テキストより
公認心理師現任者講習会テキストに記されている例外状況を紹介します。
- 明確で差し迫った危機があり、攻撃される相手が特定されている場合
- 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
- 虐待が疑われる場合
- そのクライエントのケア等に直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
- 法による定めがある場合
- 医療保険による支払いが行われる場合
- クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な相談に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
- クライエントによる明示的な意志表示がある場合
『公認心理師現任者講習会テキスト2020年版』金剛出版より引用